※下記の内容がSMBCコンサルティングのネットプレスに掲載されました

経済産業省による「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法の一部を改正する法律(以下、産活法)案」の改正が平成23年7月1日から施行されています。改正の内容、目的を理解し、中小企業のメリットは何かを見ていきましょう。 

●産活法改正の主な内容 

【1】産業再編等の重要性を踏まえた基本指針・事業分野別指針の整備

(1)事業統合の迅速化をはかるため、公正取引委員会との関係を強化

産活法の認定を受けようとする事業者が一定以上の国内売上高合計額を有する等の場合には、その業界を管轄する主務大臣は、認定しようとする再編計画について、公正取引委員会と協議を行うこととなりました。これにより、合併審査の迅速化や透明性が確保することができます。

(2)-①自社株対価の株式公開買い付けの促進

現行の会社法では「自社株」を対価とする(すなわち「自社株」と交換する)株式公開買い付けを念頭に置いた手続きが整備されておらず、公開買い付けの対価とする自社株式を発行する際に、厳格な新株発行手続きを経る必要があり、事実上利用は困難でした。 この厳格な新株発行手続きの中で「現物出資規制※」を適用除外とし、公開買い付けの対価とするための株式発行に限り、組織再編型の手続きを適用する特例手続きを設けました。 多額の現金を流出することなく、株式公開買い付けの実施が可能となります。具体的には、下記手続きが省かれます。

(A) 検査役検査の省略……たとえば、「買収する会社(a社)」が「買収の対象会社(b社)の株主」に対して、b社株式を150円で購入したいと公開します。ただし、a社は150円分を現金ではなく自社の株式(a社株式)を渡します。一方、応募してきたb社株主は、a社に対して金銭で出資するのではなく、b社株式を渡します。この行為が「現物出資」に当たります。原則として、検査役調査が必要となり、その出資価格が不当とされたときは、価格を変更されることもありました。

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(B)「有利発行」に当たる場合でも、株主総会特別決議の省略……上記の150円には、通常より高く買いますというプレミアムが含まれており、B社株主にとって有利な価格で発行するという「有利価格の発行」に当たります。「有利発行」に当たると、株主総会の特別決議が必要となり、手間がかかってしまいます。そのため、有利発行に当たる場合であっても、株主総会特別決議は省略されることになりました。

(2)-②完全子会社化手続の円滑化のための会社法特例

90%以上の株主が公開買い付けに応じた場合、株主総会の開催不要等により、完全子会社化に必要な期間が3か月短縮されます。

(3)産業再編等を行う事業者に対する長期資金の低利融資制度(ツーステップローン)の創設等

日本政策金融公庫が、産業再編等を行う事業者へ融資を行う指定金融機関(民間金融機関)に対し、財政投融資資金を原資とする長期・低利の貸し付け(二段階融資)を行います。1,000億円の長期資金を供給します。

 

【2】ベンチャー・地域中小企業等を支援

(1)ベンチャー、中堅企業等の成長企業への融資に対する債務保証

急成長する世界市場に挑戦するベンチャー企業等が、自社で研究開発した新商品を大規模に生産する際の設備投資に対し、民間金融機関が行う融資について「独立行政法人 中小企業基盤整備機構」が債務保証を行うこととなりました。ベンチャー企業については元本の70%、それ以外の企業は50%となります。

(例)自社で研究開発を実施してきた革新的な太陽光発電装置について、実証段階から量産段階に移行するため、大規模な設備投資とそれに伴う設備資金に対して債務保証を行う  など

(2)事業の引き継ぎを希望する中小企業どうしの引き合わせ支援等

事業存続に課題や悩みを抱える中小企業を、他の意欲ある中小企業が引き継ぐための支援を行います。また、事業を引き継ぐ中小企業が都道府県の認定を受けた場合には、金融面等の支援を申し込むことが可能となりました。 47都道府県に「事業引継ぎ支援センター(仮称)」を設置します。 

●産活法改正の目的 

「産活法」は「グローバル企業」だけでなく、「ベンチャー企業・地域中小企業等支援」も支援しており、今回の改正には以下のことが目的目的であるとされています。

①競争が激化する新興国をはじめとしたグローバル市場において、わが国企業が国際競争力を強化していくための産業再編を支援

②ベンチャー等の成長企業による新事業展開や地域中小企業の活性化を後押しするため

 この法律は平成11年に制定されました。「事業計画」を作成し、国の認定を受けた事業者は、税制、金融、会社法の特例等のメリットを受けることができ、制定以来、約600件の認定が行われています。過去に、㈱日本航空、㈱ダイエーなどが認定を受けており、企業再生のための法律といえるかもしれません。

改正後の初適用は、平成24年10月の合併を目指している住友金属工業㈱と新日本製鉄㈱の件です。両社の合併が市場の競争を妨げないと伝えるために、経済産業大臣(経産相)と公正取引委員会(公取委)が協議をする初めてのケースになります。競争環境など、業界の事情に通じた省庁が公取委に情報を提供することで、長時間かかることもあった合併審査が迅速になり、公取委は大臣の意見にも答えなければならず、透明性も高まります。